
エンタメビジネス実況中継
エンタメ業界で15年のキャリアを持つ朝日けけが、漫画・アニメ・ゲーム・キャラクターIPなどの新規事業の最前線で起きているビジネス動向を、毎回ひとつ取り上げて語る番組です。基本はひとり語りで、ときにはゲストを迎えながら30分にわたって掘り下げます。分析や解説ではなく、その時々の動きをそのまま伝える「実況中継」として届けられます。配信はSubstackで行われています。
エピソード

ミン・ヒジンは「自分が欲しいもの」しか作らない。
「表紙の依頼を断ってきた人が、なぜ今回は受けたのか?」2026年9月発売の『Casa BRUTUS』に、ミン・ヒジンさんが登場しました。韓国の雑誌からの表紙依頼は断ってきたと話す彼女が、今回は自宅を公開し、26ページの特集にも参加しています。その理由を、編集長と出演したラジオ番組で語っていました。わたしはNewJeansが大好きです。曲やダンスだけでなく、全体を貫くクリエイティブにも惹かれてきました。だから今回の話を聞いて、ミン・ヒジンさんが何を基準に仕事を選び、仲間へ意図を伝えているのか、改めて考えました。表紙を引き受ける判断、ooak recordsの名前、コラボグッズ、東京ドーム公演でのスタッフへの任せ方。別々に見える行動の根には、「自分が欲しいもの、自分がお客さんなら体験したいものを作る」という同じ基準があります。今回は記事で挙げた10の選択を、耳で追える順番で話します。なぜ表紙を

Netflix『ダウンタイム』完走レビュー 患者8人に見る「仕事」のための美容整形。感想・考察・ネタバレ
「患者8人の半分は、仕事のために顔を変えた。」Netflixシリーズ『ダウンタイム』では、患者が1人ずつ美容外科を訪れ、手術を受け、去っていきます。美容整形の闇を暴く業界ドラマに見えましたが、1話の声優志望・田中善子のエピソードから、わたしの見方が変わりました。声の仕事なのに、顔で落とされる。顔を変えるお金を作るため、彼女はパパ活をする。痛々しい手術よりも、その構造のほうが見ていられませんでした。そこで手術の内容ではなく、患者がなぜ整形するのかを数えてみました。公式相関図に載る患者8人のうち、4人の理由は仕事でした。声優、インフルエンサー、キッズYouTuber、東京都知事。顔が商品になる人にとって整形は体への設備投資であり、仕事を失うことは生きる場所を失うことと同じです。一方で、尊厳のための美と、病としての美も登場します。同じ手術が投資にも、救いにも、害にもなる。今回は患者8人の理由を手

2026年の新作アニメ、原作の半分以上はWeb発。アニメ原作マップを更新。
「新作アニメの原作、半分以上はWeb発でした。」2026年に初めてアニメ化される作品は、もともとどこで生まれたのか。紙の漫画誌、漫画アプリ、小説投稿サイトなど、原作が最初に世に出た場所をたどる「アニメ原作マップ」を、秋の放送予定まで加えて更新しました。前回の8月8日版では146作品を調べましたが、秋アニメはまだ出そろっていませんでした。そこで今回は、新たに25作品を追加。年間171作品に広げるとともに、秋開始58作品の中身も別の角度から整理しています。更新後も、Web漫画・アプリと小説投稿サイトを合わせたWeb発は54.4%。作品が25本増えても、前回の54.1%からほぼ動きませんでした。一方、秋の58作品には新規33本と既存系25本が混在しています。今回は、原作がどこから来たのかと、今回のアニメが新規・続編・リメイクのどの段階にあるのかを分けて見ます。分類に迷った3作品の事例も通して、い

任天堂は11年前に「40年続くIP」の作り方を言っていた。ゼルダ40周年で見えたこと。
「40年前のゼルダが、なぜいま、ここまで大きなニュースになるのか。」2026年9月8日と9日。任天堂が、初めて2日続けてNintendo Directを配信しました。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のSwitch 2版、実写映画、ゼルダ柄の本体、40周年コンサート、ニンテンドーミュージアム、スマホアプリ。ゼルダに触れる場所が、一気に並びました。ニュースとしては、ここまででお腹いっぱいです。でもわたしには、ひとつ引っかかった問いが残りました。40年前に生まれたゼルダが、なぜ2026年に、ここまで大きなニュースになるのか。なぜ新作が出るたびに、ファンの期待を越え続けられるのか。2日間を続けて見ると、これはお祝いではないとわかります。9月8日は、ゼルダという一つのIPを縦に深く掘る日。9月9日は、遊び場のほうを横に広げる日。新作もリメイクも昔のゲームも、同じ番組に並ぶ。縦と横が交わるところに、いま

『オデュッセイア』が10倍面白くなる。「掟」で全部つながる10問10答 | 解説・考察
「なぜ、見ず知らずの旅人をあそこまでもてなすのか。」クリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』を、9月10日のアイマックス先行で観てきました。上映時間は172分。観終わって2日たっても、頭のなかは映画のことでいっぱいのままです。引っかかった場面が、いくつも残っていました。冒頭でポリュペモスが父に告げ口する、あの父は誰なのか。なぜ見ず知らずの旅人を、あんなに手厚くもてなすのか。なぜ死者を弔わないことが、あそこまで責められるのか。アテナが味方なのに、なぜほかの神には苦しめられるのか。観終わってから原作と神話の資料を読み直したら、引っかかりのほとんどが、たったひとつの前提で説明がつきました。神々は人間と同じ世界に住んでいて、直接口を出してくる。そして、その世界には人間が守るべきルールがある。今回は、その前提を10個にまとめました。はじめの3つで神々とルールの話を、残りの7つで、そのルールが

『オデュッセイア』の吟遊詩人をトラヴィス・スコットにした理由。クリストファー・ノーランが2,700年前の話を現代につないだやり方とは | 感想
「勝った英雄が帰れない。その旅に、なぜ心が動くのか。」9月10日、先行上映のIMAXで『オデュッセイア』を観てきました。すごくよかった。でも、観ているあいだは何度も絶望しました。まだ序盤なのに仲間が次々と倒れ、こんな相手にどうやって勝つのかと途方に暮れる。そんな苦しい旅の最後に、心からうれしくなったんです。わたしも仕事で人を率いてきました。自分の判断についてきてくれた人に苦労をかけることもある。結果が出ても、その人が苦しんだ時間までなくなるわけではありません。その実感が、英雄オデュッセウスが死者と向き合う冥界の場面に重なりました。木馬の作戦を考え、戦争に勝ったオデュッセウス。その勝利にも、命を落とした人の人生があります。自分の知恵で人を動かした男が、帰還にあたっては人の忠告を守る。もう帰れない人たちの言葉が、生きている家族を守る行動につながっていました。今回は巨人兵の絶望、冥界での対話、慎

『スプラトゥーン』は、なぜイカにたどり着いたのか。その軌跡から見えた「コンセプトのつくり方」。
「豆腐で面白かったゲームに、なぜイカが必要だったのか?」白い豆腐と黒いゴマ豆腐が、鼻からインクを出して陣地を奪い合う。『スプラトゥーン』の始まりは、そんな試作でした。そこからヒト型、ウサギを経て、ようやくイカにたどり着く。Xに投稿して反響があったこの開発秘話を、もう少し追いかけてみました。わたしが面白いと思ったのは、イカというモチーフが見つかるまでの考え方です。試作の時点で、遊びには手応えがあった。それでも、キャラクターの姿を変えると、面白さを支えていた条件が崩れてしまう。この行き来に、コンセプトをつくる仕事の大事な部分が見えます。インクを塗ると隠れられ、相手の位置を読む遊びが生まれる。ところがヒト型では姿が見え、壁を塗っても勝敗にはつながらない。ウサギには見やすさの利点があるものの、なぜインクを撃つのかは説明しにくい。それぞれの案が持つ長所だけでは、条件は揃わなかったんです。隠れる、移動

holo Indie、Roblox、Fortniteから見る「二次創作によって拡張されるIP」の躍進。
「ファンがつくったゲームは、どれだけ遊ばれたのか?」好きなキャラの絵を描く。切り抜き動画をつくる。作品の設定を使って、自分でもゲームをつくってみる。ヒットしたエンタメの周りには、二次創作で遊ぶ人がいます。2026年6月時点で、holo Indieの作品は40タイトル超、累計300万ダウンロードを超えました。ヒットの大きさを語るとき、わたしたちは興行収入や発行部数、再生数を見ます。でも、ファンが何をつくり、それがどれほど遊ばれたかは、見落としがちでした。今回は、公式作品の周りで育っている創作を、各社が公開する数字から考えてみました。カバーは二次創作ゲームの販売を支え、Robloxはクリエイターへの還元に関わる費用を決算で公開しています。Fortniteも、プレイヤーがつくったゲームの利用時間を公表する。一方で、応募を審査する人の数や、収益の大きな偏りという課題もあります。どこまでつくってよい

マンガのアプリは消えるが、作る編集部は残る。
「金額は増えているのに、読む場所は減っています。」2026年の夏、電子コミック市場が伸びたという発表のすぐ後に、まんが王国の業績予想下方修正と、13年続いたcomicoの終了が伝えられました。市場規模は大きくなっているのに、読者が集まるはずのアプリは減っていく。逆向きに見える出来事が、ほぼ同じ時期に起きています。わたしも最初は、電子マンガが縮みはじめたのだろうと考えました。しかし、2026年上半期の電子コミック市場は2,593億円で前年同期比2.5%増。数字だけを見れば、その読みは外れています。そこで売上の中身と、各社が残そうとしている機能を分けて見直しました。見えてきたのは、市場を押し上げる割引やポイント還元の一方で、課金する読者が減っている構造です。LINEマンガの課金ユーザーは4月から6月の3か月で9.5%減少。作品を作る力と、読者を自社アプリへ集める力を、ひとつの会社で抱える前提が

HANAを追いかけたら「歌姫」が消えた理由に気づいた。
「歌姫は、どこへ行ってしまったのでしょうか。」HANAを追いかけていると、どうしても気になってしまうことがあります。歌がうまくて、女性からの支持も厚くて、曲もファッションも話題になる。もしいまが2000年前後だったら、きっとすぐに「歌姫」と呼ばれていたはずなのに、いま、その言葉をかける人がいません。そういえば「歌姫」という響き自体、ここ数年ほとんど耳にしていない。Billboard JAPANの2025年年間アーティストチャートでは、HANAが5位、YOASOBIが9位、ちゃんみなが10位、あいみょんが11位、Adoが19位。女性がボーカルの名前が上位に並んでいるのに、誰もその言葉を使わないのです。歌姫に必要だったのは、歌のうまさだけではありませんでした。倖田來未さんの「エロカッコイイ」が流行語大賞で受賞したとき、受賞者の欄にあったのは言葉ではなく本人の名前。西野カナさんは同世代の気持ちを

「SPEED」は青春そのもの。
「こんな子たち、見たことがない。なのに、学校にいた気がする。」ラブ上等2を見ながらNewJeansの記事を書き終えたあと、頭の中に戻ってきたのはSPEEDの思い出でした。1996年、日本テレビの『THE夜もヒッパレ』で、まだSPEEDという名前すらなかった4人を見ていたときの記憶です。エンタメ業界15年、複数事業を統括してきた立場から、人が売れていく過程はいくつも見てきました。それでも、あの4人がスターになっていく順番を目撃したときの驚きだけは、いまも説明しきれずにいます。公式サイトによれば、4人が番組で本格的に活動を始めたのは1995年10月、「SPEED」という名前がついたのは1996年1月13日でした。名前も自分たちの曲もない状態から見ていたからこそ近く感じられ、そして同じ順番は二度と再現できませんでした。今回は、SPEEDの1335日を最年少メンバーの学年に重ねて数え直し、NewJ

13年待った。『まどか☆マギカ』新作公開までの順番が美しい。
「13年待った続編の始まり方が、美しい。」昨日2026年8月28日、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』が公開されました。13年前の『新編 叛逆の物語』の正統な続編で、シリーズ初のIMAX同時公開です。わたしは2011年のテレビ放送時、前情報をいっさい持たずに観始め、途中の展開にまともに殴られました。それ以来の特別な作品です。新作はまだ観ていませんが、公開までの順番だけで、すでに作品らしさを感じました。公開2週間前から『叛逆の物語』を新作と同じ287館で再上映し、終了後に新作の冒頭約5分を連続上映。過去を思い出した直後に新しい断片を渡すこの設計は、次回を1週間待つ時間まで作品体験にしたテレビシリーズと重なります。今回は、20億円を超えた『叛逆の物語』から13年、制作発表から5年4か月という時間をたどります。主要スタッフの再集結、新しい2人の魔法少女、リバイバル上映から新

『オークストリートの異変』は、なぜ見慣れた物語なのに新しく見えるのか|感想・考察
「見慣れた恐竜映画が、なぜ新しく見えたのか。」恐竜が脱走し、普通の家族が襲われる。予告だけを見れば、『オークストリートの異変』はジュラシック・シリーズ以降に何度も見てきた物語に思えました。それなのに映画を観終えると、まったく新しいものを見た感覚が残ったんです。わたしが気になったのは、恐竜や時間移動という題材そのものではありません。『ブラッシュアップライフ』の転生にも感じたように、新しさは「どこから何を借りて、どこに混ぜるか」という距離から生まれるのではないか、ということでした。本作が動かすのは主人公ひとりではなく、家や庭、道路、隣人関係まで含む住宅街の日常です。能力を与える代わりに文明を奪い、恐竜を悪役にする代わりに人間を侵入者へ変える。その反転が、見慣れた材料の意味を次々にずらしていきます。今回は、1982年の郊外映画の文法、デニースによる人生の書き直し、そして幸福なラストの外側に残るか

K-POPはもう、NewJeans以前に戻れない。
「本人はいないのに、世界のほうがNewJeansになった。」2026年7月22日、NewJeansのデビュー4周年に、約1年4か月ぶりの公式コンテンツが公開されました。公園、ローラースケート、アイスクリーム。そこに映っていたのは5人ではなく4人で、新曲もアルバムも活動予定も発表されていません。それでも「再始動」という言葉が動き始めました。わたしはNewJeansが好きで、今でもほぼ毎日聴いています。先日、Xの投稿のため実績を並べ直して、忘れていた異常さに気づきました。この2年、契約トラブルや裁判の話が先に届き、6曲でSpotify累計10億回、東京ドーム2日間で91,200人という短期間の実績が、ニュースの奥へ隠れていたんです。NewJeans以前のK-POPは、強いサビ、高度なダンス、派手な映像を足して「圧倒する」ことで世界を獲りました。その頂点でNewJeansは、曲、映像、服、踊り、

物語を持たないIPが、いま映画をつくる理由。
「みなさんご存知の通り、ハローキティに、口はありません。」サンリオの公式プロフィールには、ハローキティの本名も、誕生日も、家族構成も、ボーイフレンドの名前まで書いてあります。将来の夢は、ピアニストか詩人。設定はここまで細かいのに、キティが挫折する話も、笑われる話も、どこにも存在しません。エンタメ業界で15年、IPの仕事をしてきて、この「設定はあるのに物語がない」キャラクターたちのことが、ずっと気になっていました。バービーも、ヒーマンも、出自は同じです。物語を持たないまま、何十年も愛されてきました。人形やぬいぐるみのいちばん豊かな体験は、物語がないことです。子どもが自分で物語を注ぎ込めるから。ただ、その物語はその子の中にしか残りません。隣の子とも共有されないし、大人になった本人が自分の子どもに手渡すこともできない。空白は、次の世代へ引き継げないんです。2028年公開予定のハローキティ映画、2

IPは最初からIPじゃない。
ガンダム、キティ、アンパンマン、マリオ。これらの名前を聞くと、ほとんどの日本人は知らないことはないでしょう。一方で今や日本を代表する IP となったこの4つの作品も、実は最初から人気だったり、大きく利益を出していたり、順風満帆な道を通ってきたわけではないんですよね。半世紀経った今となっては、莫大な売上と利益をもたらすこれらの「IP」と呼ばれる作品、およびその権利ですが、世の中に出た最初の時に、ここまで大きくなると見抜いた方も存在しないのではないでしょうか。本記事ではそんなエンタメビジネス界隈でIP、アイピーと叫ばれる時代において。現在、日本を代表する IP たちも、生まれた時は IP には見えてないよねという「ジレンマ」について解説していきます。まずは『機動戦士ガンダム』。だれもが知っていますよね。いまでは世界的なIPとなった作品ですが、最初のテレビアニメは当初52話までの予定だったのに、

ジャンプ100万部割れ。部数が映したのは読者数より漫画が置かれる場所。
▼話したこと・印刷証明付部数は「刷った数」であって売れた数ではない。実売も返本率も非公表・73期を並べて見えた崩れ方。最高296万部から66.8%減、ただし右下がりの一本道ではない・2018年10-12月期以降、100万部超えはジャンプ1誌だけ。消えたのは枠そのもの・紙は週98万5,000部、ジャンプ+は週480万人。ただしアプリは3年間ほぼ横ばい・答えは日販の決算にあった。391億円の減収、その約6割はコンビニ取引の終了・取引が続いた書店の店頭売上は1.7%減。棚が減れば読者が減らなくても刷る数は減る・反証も並べる。撤退は赤字の結果でもあり、2026年上半期は3.8%減まで戻った▼note記事ジャンプ100万部割れ。部数が映したのは読者数より漫画が置かれる場所。https://note.com/keke_ent/n/n30201378ada5▼朝日けけ。SNSnote:https://n

TikTokのバズは、アーティストの器のサイズまでしか伸びない。
▼話したこと・「バズってから売れた」は半分だけ正しい——M!LKは横浜アリーナ1万2,000人がバズの1年4ヶ月前にあった・火から初ステージまで2ヶ月〜31ヶ月、速さと会場の大きさはきれいに対応しない5組の比較・tuki.は31ヶ月かけて階段を全部飛ばし、初公演の日本武道館で8,503枚のギネス記録・M!LKの10年3ヶ月とME:Iのデビュー前6万5,000人——大きい数字は火がつく前の日についていた・SNS45億回の楽音、まだライブ未発表——火と場所の距離が今いちばん開いて見える存在・火をつける値段は3年で誰にでも開いたが、会場はKアリーナ横浜など3年で3つしか増えない・これから強いのはバズらせる人ではなく、バズを一度で受け止める場所を先に用意している人▼note記事TikTokのバズは、アーティストの器のサイズまでしか伸びない。https://note.com/keke_ent/n/n

エミー賞ノミネートの地下鉄インタビューYoutube『Subway Takes』から学ぶ、人を惹きつける映像の作り方。
「地下鉄で見知らぬ人の持論を聞くだけの番組が、40億再生の人気番組を退けてエミー賞に届いた」ニューヨークの地下鉄のホームで、通りすがりの人にメトロカードそっくりのマイクを向ける。「あなたの持論を聞かせてください」とお願いして、司会がその場で賛成したり反対したりする。台本なし、演出なし、編集は最小限。それだけの番組『Subway Takes』が、累計7.5億再生、ブランドタイアップ1件あたり約3,000万円、そして2026年7月にエミー賞ノミネートまで届きました。同じ舞台で落ちたのが、累計40億再生を超える『Hot Ones』です。YouTubeが賞レースに本格参入したFYCキャンペーンの結果、再生数で5倍以上ある番組が届かなかった場所に、Subway Takesだけが通りました。この結果は、再生数では説明がつきません。理由は「AIに作れないもの」だと考えています。一回性、即応性、場所の制約

K-フレグランス(韓国香水ブランド)から学ぶ「世界観の設計図」
いい香りだから、売れる。香水って、そういうものだと思うじゃないですか。わたしも、ずっとそう思っていました。でも、いま世界で伸びている韓国の新興香水(K-Fragrance)ブランドは大手ではなく、少量生産で作家性の強い、小さな作り手たちなんです。その顔ぶれを並べてみると、どうもいい匂いだから人気、という話じゃないんですよね。BLACKPINKのJennie(ジェニー)が広告に立つTAMBURINS(タンバリンズ)。"Dirty Rice(蒸したご飯)"という名前の香水を、平気で売るBORNTOSTANDOUT(ボーントゥスタンドアウト)。後者は2022年にソウルで生まれて、たった2年で60カ国に進出しました。2025年には、あのロレアルが出資しています。彼らの発信やブランドビジネスの設計を追っていくと、あることに気づきます。肝心の、香りそのものの話を、驚くほどしていないんです。本記事では、

アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由
今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。▼話したこと・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38

ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値。
「ジャンプがもう漫画雑誌には見えないんです。」単行本全2巻で完結した『タコピーの原罪』が、連載終了から3年近く経ってアニメになりました。一方で『とんかつDJアゲ太郎』は連載開始から約1年7ヶ月、『僕のヒーローアカデミア』や『ラーメン赤猫』は約1年9ヶ月でアニメ化。完結した小さな作品が何年も経って拾われ、走り出した作品はあっという間に空へ上がっていく。この落差は、いったい何なのか。「アニメ化がいつ、連載何話・単行本何巻で、どういう閾値で決まるのか」を測ったものが見つからなかった。だから朝日けけは、週刊少年ジャンプ本誌と少年ジャンプ+、この10年で連載された214作品を、連載開始日・単行本発売日・アニメ化の発表時期と放送時期まで、ひとつずつ数えました。そうしたら、ジャンプという場所が「漫画雑誌」には見えなくなってきた。閾値とは、これより小さいと反応しないが、これを超えると反応する、その境目のこ

TikTokでバズって売れた音楽アーティストは、全員当たるまでやめなかった人。
TikTokの話になると、だいたいこの筋書きで語られます。無名の子がスマホ1台で弾き語りを上げたら火がついて、事務所から連絡が来て、気づいたら紅白に出ていた、みたいなサクセスストーリー。わたしもそう思っていました。でも前回の記事を書いていて気づいたんですが、どうもそう簡単じゃないらしいと。だから、この3年で名前が広まった8組のアーティストは、火がつく前に何をしていたのか。それを1組ずつ調べたんです。デビュー日、最初の投稿日、それ以前の所属、過去に出した曲。結果、素人は一人もいませんでした。いちばん短い人でも、火がつくまでに1年半の助走がありました。長い人は10年です。しかも何人かは、バズる前にすでにメジャーデビューまで済ませてる。先に書いておくと、仕込みだったという話ではありません。8組とも、火がついた瞬間は本人にも事務所にもタイミングは読めていません。ただ、火がついたときに立っていた場所

2026年版 アニメ原作マップ | 146本調べてわかった、アニメ原作はどこから来るのか。
アニメの原作といえば、漫画か、ライトノベル。だいたいそのどちらかだと思っていませんか。わたしも、ずっとそう思っていました。ところが、この6月に流れてきたアニメ化の発表を並べていて、新しい発見がありました。イラストレーターのnecoさんが描き続けてきた、武装する女子高生のイラストシリーズ『重兵装型女子高生』が、2027年にTVアニメ化。原作は、漫画でも小説でもありません。1枚のイラストから始まったシリーズです。監督は『プリンセス・プリンシパル』の橘正紀さん。連載終了から13年がたった完結済みの少女漫画『電撃デイジー』が、世界累計発行部数500万部を引っさげて2027年にTVアニメ化。そして海の向こうでは、ストーリーモードを持たない人狼ゲーム『Among Us』のアニメシリーズが、Paramount+で6月5日に突然配信開始。1枚のイラスト。13年前に完結した漫画。物語のないゲーム。ぜんぶ同じ

なぜスパイダーマンは死ななかったのか。失速するヒーロー映画と「感情の貯金」
今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。▼話したこと・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38

才能を殺す人と生かす人の差。
「それって数字で説明できる?」これはエンタメ企業で事業統括やプロデューサーをやっていた頃、何度も言われた言葉なのですが、会社にいると、これをほんとうによく言われますよね。だけど今日は、その逆の思考について書きます。クリエイティブを殺さないほうが、結果的に儲かるし、成功するよね。という話です。もちろん、「数字で説明しろ」が悪いわけじゃないんです。上司に、株主に、役員会に。説明でいちばん通りがいいのは、いつだって数字です。誰が見ても、同じ意味に受け取れる。感想やこだわりは人によってブレるけど、数字はブレない。大勢が同じ絵を見て動く会社では、数字がいちばん、全員が納得できるんですよね。だから、数字そのものは、悪者じゃないんです。ではなぜ、才能を殺さないほうが儲かるのか。どうやって才能は殺されていくのか漫画を例に見ていきます。一巻の漫画を出したとします。初版で刷るのは、いまの時代は新人作家ならだい

音楽が「TikTokでバズったら売れる」は、半分だけ本当。
今回は、TikTokでバズったアーティストが世界に出ていく現象を、3つのステップで分析しました。「使いたくなる曲」で点火する第1ステップ、火をストリーミングに定着させ本人のファンに変える第2ステップ、そしてコピーできない「体験」につなぐ第3ステップ。この階段をのぼれるかどうかが、すべてを分けています。▼話したこと・Creepy Nuts、Tani Yuuki、tuki.らの通説「TikTokでバズったから」を一度疑ってみる・第1ステップ「10万再生の壁」——聴かせる力より、二次創作を『させる』使いたくなる力で点火する・AKASAKIの『曲名ください』、tuki.の弾き語りなど、運まかせにしない点火の設計術・第2ステップ——火が消える前にプラットフォームを横断させ、ストリーミングに『定着』させる・『マッシュル』やM!LK『イイじゃん』の流行語化など、大きなうねりの『隣』に並ぶ文脈の乗り方・M

フランスでは、映画館の券売機が次の映画に出資している
前回、クールジャパン機構の540億円の赤字を解剖しました。溶けた金の6割超は、下手な投資ではなく、案件を選ぶ人間を雇い続けた「会議室の維持費」でした。わたしはそれを「会議室のお金」と呼びました。そこで当然、こういう疑問が出てきます。じゃあ、うまくいっている国は、いったい何をしているのか。会議室で選ばないなら、どうやってお金を配っているのか。本記事では、「なぜ稼いでいる国は、国が作品を選ばないのか」という問いを、4つの国の仕組みを並べて解いていきます。そしてもう一つ、日本にとって耳の痛い問いも一緒に置きます。この「会議室でしか配れない病」は、本当にお役所だけの病なのか、という問いです。このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願

クールジャパンの540億円、本当の死因は「投資の失敗」ではない。
「溶けたのは、作品を選ぼうとした会議室だった。」2026年6月、クールジャパン機構の累積損失が540億円に達し、政府が廃止を含めた検討に入ったと報じられました。SNSは「だから言ったじゃないか」の大合唱。目利きの失敗、税金の無駄、お役所仕事——わたしも最初はそう思って読んでいました。ところが決算書と国会答弁の数字を並べ直すと、「目利きに失敗して溶かした」という物語が半分しか合っていないと気づきます。かれこれ15年エンタメ業界にいて、国のお金が絡む案件も見てきたわたしには、残りの半分にこそ日本のエンタメがこれから稼ぐ急所が埋まっているように読めました。2026年5月の参院決算委員会で経産省が示した内訳が決定的でした。投資そのものの損はマイナス35億円。含み損の先行計上が110億円。そして人件費や税金などの経費が238億円。赤字の6割超は投資の失敗ではなく、案件を選ぶ人間を雇い続けた「箱の維持

アニメ『ワールド イズ ダンシング』が10倍おもしろくなる、10個の話。
「時の将軍が、12歳の少年の舞に夢中になった。」約650年前の京都、時の三代将軍・足利義満が、観阿弥の息子・鬼夜叉のちの世阿弥、当時数え12歳ほどの舞に魅了されました。この鬼夜叉こそが、2026年7月2日に放送開始したTVアニメ『ワールド イズ ダンシング』の主人公です。原作は三原和人さんが「モーニング」で連載した同名漫画(全6巻)。第1話直後から「まるでアート作品」「作画が美麗」という声が並びました。正直に言うと、能はいまの視聴者にとっていちばん縁遠い伝統芸能のひとつだと思います。わたし自身、世阿弥は「日本史で名前だけ習った人」でした。長く大きなエンタメ企業に勤めてきましたが、企画書や戦略資料は競合に手の内を見せないため基本的に外に出ない——そういう感覚で仕事をしてきた身です。ところが作品の裏側を掘ってみたら、想像と違いました。制作の裏話も時代背景のトリビアも、たどっていくと最後はぜんぶ

AIが音楽を量産する時代に、Twitchが15,000人のDJに金を払う理由。
「レーベルとお金を分け合う。タダではないんだ」AIに『夏の終わりみたいな曲を』と頼めば、数秒で一曲できあがる時代です。Spotifyの1再生はざっくり0.4円〜0.7円。年に約1,450万円以上を稼いだアーティストは、何百万人が曲を出す世界でたった12,500組。録音された音楽の希少さは、AIによってさらに溶けていきます。ところが、そのタダになっていくはずの音楽の世界で、世界最大級の配信プラットフォームTwitchが、わざわざ大金を払って『生身の人間』を囲い込み始めました。プロデューサーの職業病として、こういうニュースは『誰がいくら払い、誰が権利を持ち、誰が得をするのか』というお金の流れで読むと、景色が変わるんです。きっかけは2026年6月26日のDJ配信イベントでしたが、本当の構造変化はその2年前、2024年6月に起きていました。Twitchはユニバーサルやソニーなどとライセンスをむすぶ

ゲームの「宣伝アニメ」で終わるものと、世界観を拡張してしまう作品の差。
「なぜこのアニメは『ゲームの宣伝』で終わらなかったのか。」ゲームを原作にしたアニメには、当然プロモーションとしての役割があります。ゲームの世界を映像で見せて、新しいプレイヤーに届ける。IPの拡張としてまっとうな設計です。『サイバーパンク エッジランナーズ』は、その宣伝としての役割を果たしたうえで、独立したアニメ作品としても成立しました。両方を同時にやれた稀有な事例です。Season 2の公開がこの秋に控えています。公開を前に、制作陣のインタビューや制作ドキュメントを改めて見直していたのですが、ずっと引っかかっていた疑問がようやく腑に落ちました。わたしもIPを外部のクリエイターに渡す判断をしたことがありますが、何を握って何を渡すかの設計が甘いと、世界観が崩れます。CDPRの『サイバーパンク2077』のIPを、日本のStudio Trigger(キルラキル、プロメア)に渡す。アニメ放映後、ゲー

アニメ『天幕のジャードゥーガル』が10倍おもしろくなる、10個の制作裏話。
「現役の大相撲力士が、チンギス・カンの声をやっている?」2026年7月に放送が始まったアニメ『天幕のジャードゥーガル』。モンゴル出身の現役力士・玉鷲がチンギス・カン役を、玉正鳳が「屈強なモンゴル兵士」役を演じています。プロの声優ではなく、片男波部屋所属の現役関取が声優デビューを飾りました。正直、最初にこの話を聞いたときは「話題づくりの策だろう」と思いました。ところが、この作品の作られ方を掘れば掘るほど、これが策でも何でもなく、ずっと繰り返されてきた一貫した姿勢のひとつに過ぎないことがわかってきたんです。原作者トマトスープさんはマイナス20度のモンゴルでカメラが動かなくなり、山田尚子総監督は史実を破ってでも文化を今の形で描こうとし、日本人俳優は本物のモンゴル語のセリフに挑みます。どれも、やらなくてもいい選択です。字幕でごまかせるし、時代考証に従っておけば無難だし、声優なら誰でもよかったはずで

Substackは「個人発信」を「事業」に変えようとしている。
「これ、Patreonキラーじゃない?」Substackが先日、たった1回のアップデートで20近い新機能を同時に発表しました。文字装飾、再生プレイヤーの刷新、投票、AI連携まで、文字どおりの『全部盛り』。そのなかからわたしが色めき立ったのは、Perks(特典)、Notes保存、Chat予約投稿、投票、ポッドキャスト取り込み配信、そしてMCP対応という6つでした。エンタメ事業を統括していたころ、わたしは一つのヒット作をアニメに、グッズに、イベントに、海外配信にと同時に広げる座組を何度も組んできました。だからこのニュースを見て最初に思ったのは『便利だな』ではなく、『なぜ、これだけの数を、一度に束ねて出したんだろう』だったんです。小出しにしてもよかったはずの機能を、あえて一気に束ねて出した。並べ直すと、Perksは『ファンとの関係』、Chat・Notes・投票はコミュニティ運営、ポッドキャスト取

Netflixアニメ『Arcane(アーケイン)』が世界を獲ったのは、最新技術じゃない。
Netflixのアニメ『アーケイン(Arcane)』を、はじめて観たとき。3DのCGで作られているはずなのに、画面がどう見ても、手で描いた一枚の絵画にしか見えませんでした。ずっと不思議だったんです。なんで、こんな見え方になるんだろう、と。答えを知って、もっと驚きました。この作品は、いまのアニメ制作で「効率化」と呼ばれる工程を、ほとんど全部、逆にやっていました。3DのCGなのに、質感や光や影を、あとから2Dで手描きしている。役者の動きを写し取るモーションキャプチャーは使わず、「モーキャップは一切使わず、全部キーフレーム」、つまり一コマずつ手で付けている。第1話だけで、制作に約10ヶ月かかっている。制作会社のフォルティシュ(Fortiche)には、のべ700人が、約8年の制作を通じて関わっている。効率のために生まれた技術を持っているのに、その効率を、わざわざ手放している。ふつうなら、こうは作り

AwichとONE OK ROCKのコラボを実現させた「レッドブルマイク」の設計に嫉妬する。
「この"場の設計"に、嫉妬しました。」Awich、CHICO CARLITO、ONE OK ROCK、Paledusk。日本のヒップホップとロックのトップランナー4組が、同じマイクの前に立ちました。プロジェクト名は「YAO」。7月7日にデビュー曲「777」が配信され、MVも公開されています。この座組を実現させたのは、レコード会社でもテレビ局でもありません。エナジードリンクの会社、Red Bullです。エンタメ事業を統括し、プロデュースを続けてきた人間として、わたしはこの企画を見た瞬間、素直に嫉妬しました。Red Bullが2021年に開設した「レッドブルマイク」は、RASEN・64 Bars・RAP賢者の3本柱で5年間シーンに場を提供し続けてきたYouTubeチャンネル。そして2026年6月29日、異ジャンルを掛け合わせる新シリーズ「Red Bull IN-YO!」が始動し、その第1弾がY

MAJに降臨しなかったBABYMETALの偉業を改めてまとめたら、世界がとっくに夢中だった件。
「サム、そこに行けなくてごめんね。僕らはイギリスにいたんだ」2026年6月、MUSIC AWARDS JAPANの壇上で、サム・スミスが「気になる日本のアーティスト」としてBABYMETALの名前を挙げました。しかしその瞬間、本人たちはイギリスのDownload Festivalのメインステージで数万人を沸かせていた。そしてその授賞式の主要部門に、BABYMETALの名前はありませんでした。プロデューサー視点でエンタメの座組を見てきた朝日けけは、この「微妙な空気」に強烈に引っかかったと言います。Billboard 200で全米9位、O2アリーナ2万人完売、Intuit Dome完売——これだけの実績を積んだグループが、なぜ日本の最高峰の賞のものさしから外れてしまうのか。違和感の裏には、必ず構造があるはずです。同じ夜、藤井風『Prema』は最優秀アルバム賞で4冠。「日本のものさしの端を一歩お

Netflix「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の凄さをまとめてみたら、世界の「勝ち方」が変わっていた。
「世界でいちばん観られた映画の名前を、あなたは言えますか。」答えは『KPop Demon Hunters』、日本では『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』。Netflix史上もっとも観られた映画で、累計視聴は約9.6億回。主題歌『Golden』はビルボードHot 100で8週連続1位、アカデミー賞2部門・グラミーも受賞しました。劇中の悪役グループ「サジャボーイズ」は、アメリカのSpotifyで本物のBTSを抜いて1位に。実在しないアイドルが、実在するスーパースターを追い抜いたんです。それなのに日本では「ヒットしているのに、ヒットしていないことにされている」状態。気づいているのは、英語の歌をそのまま口ずさむインターの子どもたちだけ、という奇妙な光景でした。プロデューサーとして15年、ヒットも爆死も現場で見てきた朝日けけが、「自分の知っているどの型にも当てはまらない勝ち方」に唸らされた1

ソニーは、すでに静かなる"アニメ版ディズニー"だった。
「同じ独占なのに、なぜディズニーは叩かれ、ソニーは叩かれないのか。」鬼滅の刃、ソードアートオンライン、Fate、推しの子、葬送のフリーレン、ぼっち・ざ・ろっく!。いま世界で当たっている日本アニメの主要IPには、ぜんぶ同じ一社の名前が「幹事」として刻まれています。アニプレックス——ソニー・ミュージックの100%子会社です。さらに海外配信最大手のCrunchyrollも、2021年にソニーが約1,700億円で買収済み。元IPプロデューサーとして製作委員会の中にいた立場から見ると、「作る・集める・世界に届ける」の全層を一社で押さえる構造が、もう静かに完成しつつあるんですよね。ディズニーがマーベルを買収したときは世界中が「独占だ」と書きました。でもソニーは、それ以上のことを製作委員会の一行として、エンドロールの隅に名前を並べる形で、ゆっくり積み上げてきた。だから事件にならず、風景になる。2024年

「音楽サブスクで食えない」のに、音楽市場が史上最高な理由。
なにを隠そう、わたしはサカナクションの大ファンだ。今年もライブチケットの抽選当たれ!と祈っている。そんな憧れのサカナクションの山口一郎さんが、YouTubeの配信で語った言葉が話題になっていました。「サブスクリプションで三億再生されたって何の意味もないから。サブスクでの収益なんてほぼ無いようなもん」CDの時代は「3,000円のCDで90円」の印税だった、とも。Xのタイムラインには「夢がない」「音楽で食えない時代」という声が並びました。気持ちは、わかります。3,000円のCDが1枚売れると、90円。200万枚売れれば1億8,000万円です。それがいまは、1再生でコンマ数円。あの時代を知っている人が「ほぼ無い」と言いたくなるのは、当然だと思うんです。ただ、この話には続きがあります。この発言を受けて、実際に計算したポストが流れてきました。TuneCoreという配信代行を経由した実例値で、1再生あ

A24が20歳に長編を任せた。決め手は、才能でも経歴でもなく「スクロールを止める力」
「製作費75万ドルが、世界で1億4800万ドル稼ぐ。」YouTubeでコント動画を上げていた26歳のCurry Barkerが、製作費75万ドル・撮影日数20日で撮った『Obsession』が、世界で約1億4800万ドルを稼ぎました。16歳でBackrooms短編を投稿した20歳のKane Parsonsは、A24に呼ばれて長編『Backrooms』を監督。製作費の14倍を回収し、全米週末興行1位を獲った史上最年少監督になりました。わたしは元エンタメ企業の事業統括として、作品の立ち上げと製作陣の起用判断にかかわってきました。映画監督は助監督を何年もやって、短編を撮って、映画祭に出して、10年・15年かけてやっと長編を任される——それが「正しい順番」だとどこかで信じていたんです。2026年、20代がその順番をまるごと飛ばしました。YouTubeで。CNNが報じたワーナー幹部マイケル・デ・ルカ

日本映画が再び世界で勝ちはじめたのは、半世紀ぶりに窓が開いたから。
「日本のエンタメ、ついに世界で大人気だね」2026年のカンヌで岡本多緒さんが日本人初の女優賞、ウディネで『FUJIKO』が最高賞、SXSWで『Never After Dark』が観客賞、そして是枝・濱口・深田の三監督がカンヌ・コンペに揃い踏み。ここ数年、世界の映画祭の受賞者リストに、また日本人の名前が並びはじめました。長年エンタメ業界でIPの座組を組む側にいた人間として、わたしはこの受賞ラッシュに、もう一段だけ別の景色を見ています。日本映画の才能は、急に上手くなったわけではありません。黒澤明の『羅生門』が金獅子賞を獲った1951年から、ずっと世界一級でした。では、なぜ半世紀も「世界では通用しない」と言われ続けたのか。答えは才能の外側、つまり作品を世界へ運ぶ「窓」のほうにあります。Netflixをはじめとする外資の配信が窓をこじ開け、真田広之・MEGUMI・賀来賢人といった作り手自身が座組を

天才は、飼いならせない。
KADOKAWAが面白いことをやろうとしています。若いアニメーターを社員として採用して、自前で育てる。バラバラだったグループのアニメ制作会社5社を、この秋、一つのオフィスに集める。およそ400人を、一拠点に。外注に頼らず、創る力を会社の中に抱え込もうという構想です。一方で、筆頭株主になった香港系のアクティビストファンド、Oasis Management、いわゆる物言う株主は別のことを迫っています。フロム・ソフトウェアという世界最強のゲームスタジオを抱えているなら、その作品を自分で世界に売って、利益を取り込め、と。※前記事で話してます。攻める株主と、守るCEO。立場は正反対です。でも、二人が信じている前提は、じつは同じなんですよね。それは「会社のものにできる」。と。わたしは、ここに引っ掛かりを感じているんです。本当にそうなのか。すごい作品やゲームを生み出す才能あるクリエイターたちや、天才たち

IPをつくる方法は、世界に三つしかない
結論から書きます。IPをつくる方法は、世界にたった三つしかありません。* 個人の狂気から生まれる* 新しいメディアの波でトップを取る* 武器を持つ企業が、強いIPを獲得して展開するFateもちいかわもガンダムもホロライブもStardew Valleyも、すべてこの三つのどれかから生まれています。わたしが知る限り、例外はほぼ存在しません。この結論にたどり着いたのは、ここ半年で複数社から「IPを作りたい」という同じ相談を受けたことがきっかけでした。業種も規模もバラバラなのに、みんなが同じところでつまずいている。2024年までエンタメ企業の事業統括としてIPビジネスに関わってきた経験と照らし合わせると、世の中のIPの生まれ方は、この三つのパターンにきれいに収束します。ただ本題に入る前に、ひとつだけ揃えておきたいことがあります。「IP」という言葉の定義です。ほとんどの方がつまずくのは「作り方」以前

大企業がIPを作れない本当の理由
すこし前の話題先日、西野亮廣さんと田中聰さん(GOKKO CEO)のIPに関する投稿がXで話題になっていました。「経営者とIPは相性が悪い」「IPは正しい経営判断からは生まれない」という主張なんですよね。元IPプロデューサーとして、これを読んで思ったことがあります。彼らの言っていることは正しいんです。ただ、現場にいた人間として、もう一歩踏み込んだ話をしたいなと。結論から言うと、大企業でIPが生まれない本当の理由。それは、経営者/創業者本人が本気でやらないから。これに尽きると思っています。本記事ではこの理由と構造について、深掘りながらまとめていきます。このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。「IPがほしい」と言う企

「超かぐや姫!」にNetflixが出したのは、お金じゃない。
「これは本当に『外資に救われた』話なのか?」「超かぐや姫!ネットフリックスがなければ生まれなかった。日本の苦しいアニメ制作現場の問題が、外資のマネーで解決されてしまうのは、なんとも悲しい限り」。お侍さん、ザンエンジニアさんのこのポストが2.5万回見られ、大きな話題になりました。気持ちは、わかります。わたしはこの作品について、すでに2本の記事を書いています。1本目は竹取物語を書き換える物語構造の話、2本目はNetflix配信から劇場公開で10億円を超えた逆流モデルの話。今回が3本目です。あのポストの「悲しい」という感情の奥にある構造を、ちゃんと分解したかったからです。2020年前後のNetflixは「お金を出して権利を全部もらう」モデルで、制作会社はIPが蓄積されない小作農のような立場でした。ところが超かぐや姫の座組はまったく違います。Netflixが提供したのは、実は「お金」ではなく「口を

AIアニメの現在地。日本と世界が選んだ別々の道。
「集英社が踏みにじられたと書いた月に、Disneyは10億ドルを賭けた。」中国では、AIで作られた縦型ドラマが月4万本投下されている──そう言われたら信じますか。ヒット率0.117%、1万本作って12本ヒット。これが2026年5月、隣の国で起きている戦場の温度です。タイムラインに流れてくる「AIで作ったショートアニメ」を、わたしたちは「すごそう/怖そう」とスクロールして忘れてきました。エンタメプロデューサーとして15年現場を見てきたわたし自身、つい最近まで「もう人間のアニメーターは要らないのかも」と漠然と思っていた一人です。でも、AIアニメが「実際に何をどこまでできるのか」をちゃんと整理してくれる記事を、わたしは一度も読んだことがなかった。だったら、自分で書こうと思いました。集英社が「作家の尊厳を踏みにじった」と単独抗議した6週間後、DisneyはOpenAIに10億ドルを賭けようとした。

ポジショニングよりレペゼンの時代
「その仕事、あなたじゃなくてもいいよね」ヒップホップのライブで、ラッパーはマイクを握るとまず叫びます。「レペゼン東京」「レペゼン川崎」。たった一言で「自分は替えがきかない」を証明してしまう、あの宣誓。ビジネス書がずっと教えてきた「ポジショニング」より、いまはこの「レペゼン」のほうが効く時代に、わたしたちは入っています。パーソナリティのけけは、ヒップホップを20年以上ただ好きで聴き続けてきた一方、エンタメ企業でIPプロデューサーとしてアニメやキャラクターをビジネスに育ててきた人間です。会社員時代、自分がレペゼンしていたのは勤め先の名前でした。看板を外した瞬間、自分が何を背負っているのか答えられなかった——あの心もとなさが、この回の出発点になっています。ポジショニングは市場が決めるので、市場が動けば毎年張り替えが必要です。3年もすれば時代遅れ。一方レペゼンは、自分の出自を先に宣言する戦略で、語

35年待った。『攻殻機動隊』が原作のまま帰ってくる。
「攻殻機動隊が帰ってきてほしかったんじゃない、わたしたちが追いついたんです」2026年7月7日、『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の放送が始まります。サイエンスSARU制作、Amazon Prime Videoで全世界配信、6月にはアヌシー国際アニメーション映画祭で先行上映。35年待たされた原作ファンにとって、これはただのリメイクではありません。エンタメ業界で15年、いろんなIPの再起動を見てきましたが、攻殻機動隊はわたしにとって特別な作品です。「攻殻以前」と「攻殻以後」でSFの見方そのものが変わった、そんな作品が、サイエンスSARU・バンダイナムコフィルムワークス・講談社・Production I.Gという4社のざぐみで帰ってきます。ポイントは、原作準拠のアニメ化が35年間ひとつも存在しなかったこと。押井守版もStand Alone ComplexもSAC_20

日本アニメを世界の誰が観ているのか
今回は「日本のアニメを世界の誰が見ているのか」という問いを、人種・スクールカースト・地域という3つの軸で掘り下げ、K-POPとの構造的類似、そして日本のIP戦略が見落としているものまで、まとめて言語化しました。▼話したこと・2025年に米国で450億分再生——黒人41%・ヒスパニック37%・白人21%という自認率の濃淡・ハリウッドが描かなかった『非一軍』——スクールカースト下層が肯定される唯一の物語装置としてのアニメ・ラテンアメリカという「もうひとつの本拠地」——80年代のDragon Ball・聖闘士星矢から続く文化的下地・K-POPと同じ構造——KCONの黒人7%・ヒスパニック23%が示す「非主流層が先に動く」現象・『非一軍』が中心に来た3つの理由——感情のリアリズム、人種の不在、コミュニティの自律性・日本のIP戦略の盲点——黒人ファン41%なのに北米コンベンションの黒人ゲストはわずか

なぜMeow Wolfは「既存IPゼロ」で年商272億円を稼げるのか エンタメビジネス実況中継 Ep.4
「既存IPゼロで、年商272億円。」ディズニーランドはミッキー、USJはハリー・ポッター、Netflix Houseはストレンジャー・シングス。体験型施設は「すでにファンがいるIP」で集客するのが王道のはずです。ところが、そのセオリーを完全に無視して年商272億円(2025年度・1億8,130万ドル)を稼ぐ会社がアメリカにあります。Meow Wolf(ミャウ・ウルフ)。全米5都市、累計来場者1,300万人、TIME誌「最も影響力のある旅行・観光企業10社(2026)」選出の異常値です。今回はエンタメプロデューサーの視点から、Meow Wolfがなぜ既存IP抜きで成立するのかを構造から分解します。広告代理店CD時代、UGCキャンペーンを設計しても「キャンペーン勢」しか集まらず拡散しない壁に何度もぶつかってきました。Meow Wolfの設計は、その壁をきれいに越えています。答えを先に言うと、彼

コナン映画の4年連続100億超えの設計を読み解く エンタメビジネス実況中継 Ep.3
「あれ、なんで自分は毎年これをみに来ているんだろう」劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』を観終わって席を立つとき、ふと気づきました。別に大ファンってわけじゃない。それなのに、4月になったら劇場のチケットを買い、150分のあいだ笑ったりハラハラしたりしている。映画を観たんじゃない、装置に連れて行かれていた——そう気づいた途端、コナン映画の構造が一気に見えた気がしました。公開3日間で35億円、シリーズ歴代No.1スタート。4年連続100億超えは邦画史上前例のない数字です。AKB総選挙が「順番の不確定さ」でファンの怒りを生んだのに対し、コナンは「順番の確約」でファンの期待に変えた。推しがメインじゃない年に劇場へ行かない選択が、翌年の来場に変換される——その心理設計こそが100億の正体です。今回は、寅さん的「ローテ型」とMCU的「強連結型」、そしてAKB的「不確定型」を比較しながら、コナン映

世界観って結局なんだ? エンタメビジネス実況中継
「世界観をもう少し詰めたいですね」打ち合わせで、何度も飛び交う言葉です。でも「世界観とはこういうことで、具体的にはこうやって設計するんですよ」と教えてくれる人は、ほとんどいない。プロデューサーとしてゲーム・漫画・アニメの仕事を中心に15年、たくさんの案件に関わってきましたが、ずっと違和感を抱いていたのが、この「世界観」という言葉でして。人によって定義はバラバラ。なのに会議では平気で飛び交う。「世界観に合わせて」「世界観として弱い」「世界観が大事」。これを聞いたクリエイターやスタッフは、それぞれ違うイメージを頭の中で描く。プロジェクトはそこから静かにズレていく。今回は「世界観って結局なんなのか」を、わたしなりに言語化してみました。▼話したこと・「世界観」という言葉が抱える3つの誤用——雰囲気・設定資料・ブランド・ゲームの現場で見た「世界観のズレ」が起きる構造・漫画の現場では、なぜ世界観の崩れ

AIを使わない産業が、いちばん伸びているという逆説
生成AIをいちばん使っていない産業が、いちばん伸びている。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が4月末に発表した2025年通年の報告書を読んでいて、奇妙な事実に気づきました。音楽産業の輸出成長率が32.4%。コンテンツ産業全体の5.9%を6倍近く引き離して、ぶっちぎりで伸びている。ところが、この音楽産業の生成AI導入率は15.2%。全ジャンルで最下位です。ゲームの70%、ウェブトゥーンの51.6%と比べると、桁が違う低さ。なぜAIをいちばん使わない産業が、いちばん伸びているのか。今回はこの逆説を、数字・産業比較・産業の脆さの3層で解いていきます。▼今回話したこと・KOCCA報告書が示す「音楽輸出32.4%増」の異常値・K-POP海外売上の内訳——ライブ47.5%、CD31.4%、 ストリーミングたった21%・なぜフィジカルがデジタルを上回るのか・「AIに任せたら意味がなくなること」とは何か・











